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2025/12/26 特集記事

名城大学女子駅伝部 密着レポートvol.8
富士山女子駅伝へと向かう12名の覚悟

写真左から大河原萌花選手、米澤奈々香選手、力丸楓選手

10月26日(日)、仙台で開催された全日本大学女子駅伝対校選手権大会。王座奪還を掲げて臨んだこの舞台で、名城大学女子駅伝部は3位でフィニッシュし、表彰台に立った。

優勝校との差は、わずか22秒。1区で生まれた差を、2区以降で少しずつ詰めていく。中盤では最上級生が流れを整え、アンカーを務めた初出場の村岡美玖選手(3年生)が猛烈な追い上げを見せた。今回も、レースは決して崩れていない。それでも、見えていた王座にはわずかに届かなかった。「勝負の土俵に立っていた」からこそ、この22秒は重く残った。

あの日、届かなかった差。

その現実を背負い、名城大学女子駅伝部はいま、12月30日を目前にしている。大学女子駅伝シーズンの最終戦である富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝競走)だ。7区間43.4km。全国の女子駅伝の中でも、類を見ない過酷なコースで、高低差174mという起伏が選手たちを待ち構えている。

富士山女子駅伝のエントリーメンバーは12名。4年生は米澤奈々香、石松愛朱加、上野寧々、大河原萌花。3年生に村岡美玖、山田未唯、力丸楓、2年生は近藤希美。1年生からは金森詩絵菜、橋本和叶、長岡みさき、細見芽生。10月の全日本でエントリーした10選手に、上野選手と金森選手が加わった形だ。

全日本から富士山女子駅伝までの2か月で、チームの空気は静かに変化している。トラックでは自己ベストを更新する選手が続き、数字だけを見れば状態は上向いている。ただ、その数字だけで語れるほど、富士山は単純な舞台ではないのも現実だ。

雨の中練習を行う選手たち
ストレッチを行う、米澤選手と原田紗希選手(4年生)

 「静かな上昇気流がチームを押し上げる」 -米田勝朗監督-

「一度負けると、勝ちを取り返すのは簡単じゃない」。米田勝朗監督はそう口にする。「連覇していた時代は、多少のミスがあっても最後に勝ち切れた。でも一度頂点から降りると、同じやり方では戻れない。その感覚を、今回の全日本で改めて思い出しました」。

数字の上では、チームは確実に前進している。今季、トラックで記録した7人の5000m平均タイムは15分42秒。名城大学が最も強かった2020年前後でも出せなかった水準だ。

「区間距離が長く、差が開きやすい富士山女子駅伝では、名城大学は間違いなく有利。うちは選手層が厚いので、どの区間に誰を配置しても、ある程度他大学と勝負できるオーダーは組めそうです。でも、トラックで走れたからといって、駅伝でそのまま走れるという保証はないんです」。

勝負の鍵は、最上級生にある。「4年生が強くないと、強いチームにはならない」。米田監督は繰り返しそう語ってきた。「4年生には、後輩が気持ちよく走れる展開を作ってほしい、という話をしました。自分がどうこうというより、チームをどう前に進めるかを考えてほしいです」。勝ち方を知っている学年が、富士山でどんな背中を見せてくれるだろうか

米田勝朗監督

「耐え抜いた4年間」-大河原萌花選手-

故障が続いていた大河原萌花選手は、4年生になって初めて、ようやくたすきをつなぐ舞台に立った。

「全日本は初めての駅伝でしたが、しっかり仕上がってきている感覚があり、落ち着いて自分の走りができました。今季は、故障せずに練習を継続できていることが一番大きいと思います。今までできなかったことが、やっとできるようになってきました」。

そして、11月の記録会では自己ベストを更新。「自信になりました」と話す一方で、「15分50秒は切りたかった」と悔しさも口にする。満足よりも前進への意識が伝わってくる。

富士山女子駅伝に向けては、結果を出すための具体的なイメージを持っている。「4年生として、チームに良い流れを作りたい。自分の持ち味であるラストスパートで、チームを助けられたらと思っています。母をはじめ、本当にたくさんの人に支えてもらってきました。応援してくださる方々に、恩返しがしたい。その気持ちで走っています」。

4年生で初出走となった、大河原萌花選手

米田監督は大河原選手を「逃げなかった選手」と表現する。「4年間ずっと輝いて卒業する選手もいれば、1回も駅伝を走らずに卒業する選手もいます。本当にいろんな選手を見てきましたが、大河原のように我慢強く、粘り強く頑張って、最後の最後にしっかり結果を出してくれた選手がいるということは、後輩たちにも大きな勇気を与えると思います。最後に全ての力を出し切って、胸を張って卒業してほしいなと思います」。

「走れなかった時間を力に変えた」-金森詩絵菜選手-

1年生、金森詩絵菜選手の今季前半は、怪我との戦いだった。「入学してすぐに大腿骨の疲労骨折があって、前半シーズンは3回も疲労骨折をしてしまいました。走る練習ができなくて、補強やバイク、プールばかり。陸上人生で一番大きな挫折でした」。

走れない時間は、選手にとって最も苦しい。その期間を、金森選手は「正直、結構落ち込みましたし、乗り越え方がわかったわけでもないです。時間が経つのを待つしかなかったというか、心が折れながらも前に進んでいった、そんな感じです」と振り返る。

そんな葛藤の中で、金森選手は全日本ではなく富士山女子駅伝に照準を合わせる選択をした。「夏合宿の時点では、かなり差が開いていました。でも、このままじゃ絶対終われない、全日本には間に合わなくても、富士山ではメンバーに入るぞという思いでやってきました。富士山でエントリーメンバーに入れたことで、まずは一安心しましたが、そこで満足はしていません。絶対に走りたいという気持ちが、より高まりました」。

苦しい時間を支えていたのが、同期の存在だ。「マネージャーの悠華には本当に感謝しています。悠華が寄り添ってくれたからこそ、ケガの時期を乗り越えられました。前半シーズンに活躍した細見や橋本からも刺激をもらいました。焦りや悔しさもありましたが、自分が結果を変えるしかない、もっと頑張ろうと思えるようになりました」。

インタビューに応える、金森詩絵菜選手

走れることが当たり前だと思わない感覚は、長い駅伝で必ず力になる。金森選手が積み重ねてきた時間そのものは、これからの選手人生の支えになるだろう。

米田監督は、金森選手をこう評価する。「試合になったら、しっかり力を出せる、粘りのある選手です。福岡の名門校・筑紫女学園という厳しい環境でやってきているので、精神的にも強い。4年間、主軸になる選手だと思っています」。

【マネージャー・武田悠華さんの記事はこちら】

「チームに新しい風を吹き込んだ」-細見芽生選手-

細見芽生選手は、1年生ながらチームの空気を変えた存在だ。1区を担当した全日本では悔しい結果となったが、その経験をバネに、視線は富士山女子駅伝に向いている。

「全日本では、駅伝の難しさやトラックとの違いを痛感しました。状態は悪くなかったのに、焦って冷静なレースができず、自分の走りを出し切れなかった。その点は本当に悔しく、申し訳なかったです。あのレースを悪いまま終わらせるんじゃなくて、いい経験だったと笑えるように、富士山では今の力を最大限出せる走りをしたいです。長い距離の区間を走りたい気持ちがあります!」と話した。

名城大学で日本一を狙うことは、細見選手にとって通過点だ。「将来はマラソンでオリンピックに出たいんです。そのために、大学では長い距離をしっかり踏んで、実業団に行ったときに通用する力をつけたいと思っています」。

細見芽生選手 (「第46回世界クロスカントリー選手権大会」日本代表にも選出)

米田監督は、細見選手の姿を、卒業生の加世田梨花選手(現ダイハツ陸上競技部)に重ねて見ている。「チームが変わるとき、節目には必ずこういう存在が現れるんです。加世田が1年生で最長区間を走ったとき以来の感覚です」名城大学に集う選手たちは、高校時代からエース格の選手が多い。その中で、前年に王座を逃したチームに1年生として加わり、内側から刺激を与えた存在が細見選手なのだ。「7月のワールドユニバーシティゲームズの10000mでは、正直、あそこまで走れるとは思っていませんでした。こういう選手が出てくるとき、チームはまた次の段階に進むんだなと感じます」。

写真左から山田未唯選手(3年生)、細見選手(1年生)、近藤希美選手(2年生)。

「走りのレベルを一段引き上げたキャプテン」-米澤奈々香選手-

米澤奈々香選手は、全日本を「収穫のある駅伝だった」と振り返る。

「けが人も少なく、すごく順調に迎えたレースでしたが、自分たちが思っていた以上に厳しい舞台で、簡単に勝てるものではなかったなと感じました。ただ、その分、富士山につながる経験になったと思っています。全日本を終えてから富士山までの2か月、足りなかった部分にチーム全体で向き合ってきました。悔しさはありますが、その分、富士山に向けてみんなの意識は高まっていて、優勝という目標に向かって一丸となって練習できていると思います」。

11月の日体大記録会では、4年ぶりに自己ベストを更新し、大学最後の駅伝を前にはずみをつけた。「自分でも調子は良くなってきている感覚があって、富士山に向けて、いい一歩となりました。これまで前半区間を任せていただくことが多かったので、今年もチームに勢いをつけられるような走りをして、優勝という目標に貢献します。後輩たちには、駅伝の面白さや楽しさを味わってもらえるように、少しでも楽に走らせてあげられるレースにしたいです」。

米澤選手の歩みを、米田監督はこう語る。「米澤は中学時代からずっと注目を浴びてきた選手。この時期に自己ベストを大幅に更新するというのは、本当にすごいことです。もともと持っていた記録のレベルが高かった分、それを上回るのは簡単ではなかったと思います。2年目、3年目と苦しいシーズンもありましたが、結果をしっかり示してくれました。頼もしいキャプテンになってくれたという印象です。富士山女子駅伝でも、力通りの走りをして、優勝を引き寄せてくれたらいいなと思っています」。

最上級生のラストランは、いよいよ4日後

全日本で味わった「22秒の重み」を背負うのは、メンバーそれぞれが積み重ねてきた時間と、走り続けてきた距離だ。12月30日、名城大学女子駅伝部は、「王座奪還」に再び挑む。

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