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愛知県公立校初、名古屋西高等学校女子硬式野球部――創部2年目の現在地

野球初心者も多い部員たちが集う、名古屋西高等学校女子硬式野球部

名西のマウンドに女子生徒が立つ!

硬式野球の主役として、女子が堂々とマウンドに立つ。そんな風景が、当たり前になろうとしている。

名古屋西高等学校女子硬式野球部は、愛知県では3校目、公立高校として県内初の女子硬式野球部だ。2024年4月に創部したばかりの新しい部だが、創部2年目にして部員は11人。2025年夏には「第16回記念 全国高等学校女子硬式野球ユース大会」に出場し、公式戦の舞台に立った。

創部をリードしたのは、赴任したばかりの宮河龍之介監督だ。

「名古屋西高校は女子生徒の割合が6~7割と高い学校です。一方で、広いグラウンドを思い切り使えているのは男子が中心でした。女子がグラウンドで本気で体を動かせる場をつくりたかった。それが一番の出発点です」。

宮河監督自身、小学生のころから野球に打ち込んできた野球少年。指導者になりたいという思いを抱き、教師の道を志した。その過程で、女子硬式野球の競技人口が確実に増えていることを肌で感じていたという。

「中学までは男子に混ざってプレーしていた女子が、高校で続ける場所がないという現実があります。愛知県には女子硬式野球部を持つ高校が2校ありますが、いずれも私立です。公立校で受け皿をつくる意義は大きいと考えました」。

宮河龍之介監督

創部当初の見通しは楽観的ではなかったが、創部2年目にして11人が集まり、想定よりもずっと早く公式戦出場を果たした。

宮河監督が目指したのは、初心者でも安心して挑戦できる環境だ。実際に、入部した11名の生徒のうち、野球やソフトボールの経験者は数名。練習はゼロからのスタートで、初めて触れるのが硬式ボールという生徒ばかりだ。ボールの持ち方、グローブをどちらの手につけるか、基本的なルール――。経験者にとっては当然のことを、一つひとつ確認しながら進めていく

「野球を嫌いにさせない。それが一番大事だと思っています」

名古屋西高等学校女子硬式野球部が作ろうとしているのは「女子生徒が野球を続けられる場所」なのだ。

1年生、岡本咲希選手

ソフトボールから硬式へ――握る球と役割を変える

キャプテンの水谷朱葉(みずたにあげは)選手は、数少ない経験者のひとりだ。中学時代はソフトボール部でプレーし、ポジションはセンター。名古屋西高校に進学を決めたときは、ソフトボール部はなく、女子硬式野球部が新設されることも知らなかったという。

「最初は、他の運動部に入ろうかなと思っていました」。

正直、すぐに入ろうと決めたわけではなく、バドミントンなど他の部活とも少し迷った。それでも体験に参加し、宮河監督の熱量を間近で感じ、「ここなら野球を楽しめそうだな」と思ったのが決め手だった。

ソフトボールと硬式球では、力の入れ具合もボールのサイズも異なる。最初は感覚の違いに戸惑いもあったという。だが、手応えを強く感じたのは打球の感触だった。

「ソフトのときは、あまりバッティングが得意じゃなかったんです。でも野球で初めて打ったとき、自分が思っていたよりボールが飛んで、すごく気持ちよかったです」

2年生・水谷朱葉キャプテン

現在はセカンドを守る。外野のセンターとは違い、常に全体を見るポジションだ。チームには野球未経験者も多い。ルールを知らないところから始めた部員もいる。その中で、経験者としての役割も自然と生まれた。

「自分がやれている動きでも、いざ言葉で伝えようとすると、意外と難しいんです。人に教えることで、自分のプレーや基礎的な動きを見直すきっかけになりました。野球初心者の子たちが伸びていく姿を見るのは、本当に嬉しいです。最初はまったく捕れなかったボールをしっかり捕れるようになっていたり、打球の飛距離が目に見えて伸びていたり。最近は特に、『こんなに変わったんだ』って感じることが増えました」。

水谷選手は、中学時代にリーダー経験はなく、キャプテンに指名されたときは、不安もあったそう。

「最初は『自分にできるのかな?』って思いましたが、半年経って、みんなが頼ってくれていると感じることが増えました。チーム全体のことを考えられるようになったのが、大きな変化です」。

打順は主に2番。送りバントや進塁打など、チームバッティングを担う役割だ。今の目標は、守備も打撃も自信を持てる選手になることだ。

未来の後輩へのメッセージを聞くと「野球観戦が大好きな人は、ぜひ自分でもプレーしてみてほしいです。実際にやってみると、この守備はこう動いているんだとか、この選手はこういう準備をしているんだとか、プレーの意味が分かるようになります。観るのがもっと面白くなりますよ!」と力を込めた。

チームを支えるキャプテン・水谷選手

美術部からマウンドへ――絵筆を置き硬球を握る

野球未経験で入部したのが戸﨑優香(とさきゆうか)選手だ。中学時代は美術部。入学当初は家庭部を希望していた。運動は嫌いではなかったが、一つの競技に打ち込んだ経験はなく、野球のルールも「うっすら」知っている程度だったという。

「友達に誘われてマネージャーとして入るつもりだったんです。でも『人数が少ないから、マネージャーもバッティングピッチャーをやってもらわないといけない』と言われて。気づいたら、マウンドに立っていました」。

入部前と入部後で、野球に対するイメージも大きく変わった。実際にボールを手にしたとき、「こんなにどっしりしているんだ」「こんなものを投げているんだ」と驚いたという。家族や友人にも驚かれ、今でもどこか「自分でも不思議な気持ち」があると笑う。

1年生・戸﨑優香選手

野球を始めたことで、家族との時間も変わった。バンテリンドームで中日ドラゴンズの試合を観戦するようになり、練習やプレーの話題が食卓にあがるようになった。もともと野球観戦が家族の趣味だったわけではない。戸﨑選手の入部をきっかけに、新しい文化が一つ誕生したのだ。

現在はチームの左投手として登板する戸﨑選手は、初めて公式戦のマウンドに立った日のことを「正直、すごく緊張しました。でも、いつか最後まで投げ切れる投手になりたいです」と振り返る。

もし「野球部なんて自分には関係ない」と思っている子に声をかけるとしたら――。そう尋ねると、戸﨑選手はこう答えた。

「私も、野球をやるつもりは本当になかったんですよ。でも、軽い気持ちで始めてみたら、想像以上に楽しかった。覚悟を決めてからでなくてもいいので、ちょっと覗きに来て、『あ、楽しいな』って思えたら、やってみてもいいかもしれませんよ!」

野球未経験から左投手へ。戸﨑選手

前例のない場所で、どこまで行けるか

宮河監督は、経験者だけで構成されたチームを目指さない。

「初めてでもやれる、というのが一番のポリシーです。理想は、経験者が2、3人いて、あとは初心者。そういう構成がベストだと思っています」

ゼロから始めるからこそ、伸びは大きい。

「中学まで経験してきた選手と同じレベルで戦えるようになるのかどうか。先行事例がないので、どこまで伸びるかはまだ未知数です。もう伸びしろしかありません」

現在の課題は設備面だ。学校のグラウンドには防球ネットがなく、学校では試合や一部の練習ができない。

「理想は、練習も練習試合も学校で完結できることです。学校で練習して、学校で試合ができる。そんな当たり前をつくりたいです。究極の理想は、0円で野球ができる環境です。体一つあれば、やりたいと思った子がすぐに始められる。そんな場所にしたいです」。

宮河監督の挑戦は始まったばかり

愛知県の公立高校初の女子硬式野球部。その創部期の模索は続く。今は中学のクラブチームとも積極的に交流し、技術を学びながら学校の魅力を伝える。2月には女子野球部のある大学を訪ねた。野球を続ける道を示すこともまた、役割の一つだ。

「僕の中でのハッピーエンドは、甲子園の決勝の舞台に立つことですね」。

甲子園球場で決勝が行われる全国高等学校女子硬式野球選手権大会には、2025年は全国67チームが出場した。名古屋西高等学校女子硬式野球部がその舞台に立つ日が待たれる。


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