女子ハンドボール界のトップに立つ日まで
HC名古屋の挑戦は終わらない
厳しいシーズンの中で見出した、進化の予兆
8月29日(土)に開幕した第45回日本ハンドボールリーグ。会社が社員の部活動として行っている実業団チームが多い中で、名古屋市瑞穂区を拠点とする女子ハンドボールクラブのHC名古屋は、選手がそれぞれ違う企業に勤めているクラブチーム。フルタイムの仕事と競技との両立というハードな環境にありながら、プレーオフ進出を目標に現在奮闘中だ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で2試合が中止となった昨シーズンは、レギュラーシーズンを4勝10敗2分の7位で終えた。キャプテンの髙宮咲選手は昨シーズンを振り返り、「連敗が続いた時期は本当に苦しかったです」と胸中を明かす。また平松香奈選手も、「勝てるはずの相手に負けてしまったり、絶対勝たなければいけない試合を落としたり……。すごく厳しいシーズンでした」と語る。昨シーズン入団1年目の山本眞奈選手は、その前年まで大阪体育大学でインカレ4連覇達成という環境に身を置いていただけに、先輩2人とはまた違う思いを抱いた様子だ。「リーグ戦でも練習試合でも、負けた時はすごく悔しかったです。連敗が続いて苦しかったですが、自分がこのチームを引っ張る存在になれるように、とにかく頑張ろうと思えました」。
しかし、厳しいシーズンの中に光明が見えたこともある。2月23日(日)、実業団チームの強豪でリーグ17回制覇の記録を持つオムロンピンディーズとの試合。HC名古屋はチームにとって歴史的といえる勝利を手にしたのだ。この試合について、髙宮選手はこう語る。「私達のようなクラブチームより、環境に恵まれた実業団チームに勝ちたいというのがひとつのモチベーションになっているので、最高に嬉しかったです。ピンディーズに勝った時は、優勝したかのようなお祭り騒ぎでしたね。サラ(山本選手)なんて泣きすぎて、目がパンパンに腫れたまま記念撮影を行いました(笑)」。
上位チームと戦うために必要なこと
髙宮選手がHC名古屋に入団した6年前は、格上チーム相手には1勝もできないどころか、ダブルスコアをつけられて負けることも珍しくなかったという。しかし、今は負けたとしても5点差程度に止めるなど、着実に力を伸ばしている。その上で今後さらに必要となってくるのが、接戦を勝ち切るためのチーム力をつけることだ。平松選手は、「そのためには、フィジカルの強化が必要です。私達クラブチームは実業団チームと違ってウエイトトレーニングの時間さえ限られているので、ライバルチームとのフィジカルの差は大きいとつくづく感じています」と話す。山本選手も平松選手と同じ気持ちで、「練習中の厳しさもまだまだ足りないと感じています。もっと気持ちを前に出していかないと駄目ですし、“しっかりと取り組まないと置いていかれる”という厳しい雰囲気も必要だと思います」とメンタル面の課題も挙げた。2人の言葉を受けて髙宮選手は、「フィジカルに加えて、勝負どころの時間帯に強い気持ちを持ってコートに立っている人がどれだけいるかという、メンタルの部分も重要です。勝負どころで積極的にシュートを打ちに行ったり、“ここは私に任せろ”と自信を持って言えたりする選手がどれだけいるか。HC名古屋は選手同士の仲がよく、チーム力が磨かれていると思うので、そこに個々の力が備わってくれば、もっと勝てる試合が増えてくるはずです」と選手一人ひとりの力を活かし、チーム全員で戦っていきたいというキャプテンとしての思いを語った。
チーム全員の仲がよいことは、上位チームと戦う上でHC名古屋の大きな武器になっているそうだ。ほかのチームからも「仲がいい」と言われるほどで、その雰囲気のよさに惹かれて入団を決めたという山本選手は、「先輩達がとてもやさしく接してくださるので、安心感を持ってプレーに集中することができています。このチームに来て本当によかったと思っています」と笑顔を見せた。
実業団チームを倒し、プレーオフ進出が目標
髙宮選手に今シーズンの目標を尋ねると、「プレーオフ進出圏内の4位以内に入ること」と即答。髙宮選手が入団して以来、シーズン8勝が最高記録であるため、それ以上の勝利数をあげることも目指しているという。「8勝以上するということは、自分達より上位のチームに勝たなければいけないということです。チーム全体がレベルアップすれば、それも決して不可能ではないと考えています」。
昨年の12月に熊本県で行われた「2019女子ハンドボール世界選手権」。HC名古屋はチームメンバー全員でこの大会を観に行ったという。髙宮選手は、世界レベルの試合の印象について、「男子並みのシュートで、球が速くて見えなかったです。ゴールの10mくらい手前からシュートを打ってもネットに突き刺さる感じで、本当にすごかったです」と語る。山本選手も、「自分達と同じスポーツをやっているとは思えないほどのスピード感でした。パス回しも速攻も、速さが全然違いましたね。私は身長170cmで、日本人プレーヤーとしては大きい方なのですが、世界では170cm台は普通です。それよりもっと大きい選手もいて、ボールが小さく見えたくらいです」と世界のレベルの高さに驚嘆。平松選手は、「個々の能力も非常に高く、弱点がどこにもなくて、全ポジションの選手がキーマンという感じでした。私と同じポジションの人を見て、参考になる動きを学べたので、今後のプレーに活かしていきたいです」と、確かな収穫を得たようだ。
東京2020では、その世界レベルの相手と戦わなければならない。チームで唯一日本代表チーム「おりひめJAPAN」に選出されている髙宮選手は、「私達日本代表は判断力やフェイント力が優れているので、その特長を活かすため、ナショナル合宿では7人攻撃(全員での攻撃)を徹底的に練習しています。世界選手権では惜しい試合もありましたが、いい勝負はするけど勝ちきれないというところは今のHC名古屋と同じ。それを乗り越える勝負強さを持たなければと思っています」。
また、世界選手権の盛り上がりについて3人はどう感じたのか。「ハンドボールが好きな人達の間では盛り上がっていましたが、日本全体で盛り上がっていたとは言えないですね。ラグビーワールドップの試合のように、もう少しテレビで取り上げてもらえる機会があればと思います。そういう意味でも、オリンピックはハンドボールを多くの人に知ってもらえる大きなチャンスだと考えています。一度観ていただければ、ハンドボールの面白さにハマってもらえるはずです!」。髙宮選手の言葉に、平松選手と山本選手も力強く頷く。「ハンドボールはスピードがあって、ボディコンタクトも激しく、ほかのスポーツにはない迫力を味わっていただけます。ぜひ一度会場で観ていただきたいですね」。
自分達のプレーで、多くの人にパワーを届けたい
8月に開幕した日本ハンドボールリーグ。HC名古屋は初戦で白星をあげ、幸先のよいスタートを切った。山本選手は、「新型コロナの影響でテンションが下がっている人も多いかもしれないですが、ハンドボールを観て少しでも元気になっていただきたいです。“すごい! 自分もやりたい”と思ってもらえるようなプレーをしたいと思いますので、ぜひ応援してください!」と、愛知のスポーツファンに向けてメッセージを送る。
一人ひとりの力はまだ小さいかもしれない。だが、個の力を結集させることで、強い団結力が生まれる。10/3現在、これまでのHC名古屋のホームゲームはリモートマッチ(無観客)で行われているが、今後は有観客の試合も行われる予定だ。ぜひ試合会場でハンドボールの、HC名古屋の魅力を感じてほしい。
たかみや さき。東京都出身。ポジションはライトバック。コートネームは向(キョウ)。左利きという利点と多彩なシュートバリエーションを駆使して、チームの得点源として活躍。試合に対してストイックな反面、『クレヨンしんちゃん』が大好きというギャップが魅力。
ひらまつ かな。愛知県名古屋市出身。ポジションはライトバック。コートネームは心虹(ココ)。ポストの選手との2対2のコンビネーションプレーを得意とする。「真面目で努力家」とチームメイトに称されるように、しっかり者で頼り甲斐のある存在。
やまもと まな。三重県出身。ポジションはレフトバック。コートネームはサラ。チーム1の長身から放つロングシュートが最大の武器。昨シーズンはルーキーながらほとんどの試合に出場し、存在感は抜群。髙宮選手曰く、「私が一番期待している若手」。
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