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2025/10/24 特集記事

名城大学女子駅伝部 密着レポートvol.7
2025年度全日本大学女子駅伝エントリーメンバー発表――挑戦者として踏む新たな一歩

10月26日(日)に仙台にて開催される、全日本大学女子駅伝対校選手権大会のエントリーメンバー10名が発表された。4年生は米澤奈々香(写真左)、石松愛朱加、大河原萌花。3年生は村岡美玖、山田未唯、力丸楓。2年生は近藤希美。1年生は長岡みさき、橋本和叶、細見芽生(写真右)。王座奪還を懸ける、新しい名城の顔だ。

2017年の12年ぶりの優勝を皮切りに、学生女子駅伝界を席巻してきた名城大学女子駅伝部。以降、同大会7連覇を達成して黄金期を築いたが、その安定の裏側で勝つことが当たり前となり、勝利への渇望が少しずつ薄れ、優勝の質も変わっていった。昨年、長く続いた連覇が途切れたとき、チームは初めて立ち止まり、勝つとは何かをもう一度見つめ直した。敗北は、名城大学にとって再出発の起点となった。

米田勝朗監督の目に映る、チームの現在地

「今シーズンは非常にいい状態で駅伝に入っていけると思います。故障者がほとんどいない。これは12年ぶりに優勝した2017年以来のことです」と米田勝朗監督は話す。出場大学の個人ランキング(5000mのタイム)上位15名中、1位の細見芽生選手をはじめ6名が名城大学の選手。2度目のメンバー入りとなった4年生の大河原萌花選手、長く故障に苦しんだ3年生の村岡美玖選手の名もそこにある。さらに、2025年度シーズンの5000m上位6名の平均タイムは15分51秒44。2位の城西大学に25秒もの差をつけ、数字の上でも厚みと勢いを示している。

駅伝強豪高校・長野東高校出身の村岡美玖選手。

その進化の裏にあるのは、取組の質の変化だ。米田監督曰く「特に印象的だったのは、1月下旬の宮古島合宿での4年生の姿です。新チームになって最初の合宿でしたが、前の年までは一番最初に練習を上がっていた4年生が、一番最後まで残って練習していました。あの姿を見たとき、チームは少しずつ変わっていくだろうなと感じました。夏合宿では、練習の1時間前には全員が起きて、廊下で黙々とストレッチをし、夜も消灯ギリギリまでケアを続けていた。そういう姿勢の積み重ねが、今の結果につながっていると感じます」。

その意識の変化が、数字以上にチームの成熟を物語っている。かつて「勝って当然」だったチームが、もう一度「勝つために何をすべきか」を考え始めた。勝利を重ねる中で薄れていた「勝ちたい」という感情が、再び選手たちの中に鮮やかに戻ってきている。

「監督としては、久しぶりに追われる立場から追う立場になり、『ああ、こういう気持ちだったな』と、感覚を思い出しました」。そして、敗北を経た今年、指導の言葉が選手の胸に届くようになったという。「以前は『こんなことしていたら負けるよ』と言っても、実際には勝ててしまうから、どこか他人事で伝わらなかった。でも今は、確かに響いているという実感があります」。

同じ言葉でも受け取り方が変わる――それはチームの意識変容を示す何よりの証だ。「チームは毎年少しずつ入れ替わりますが、実際には4分の3は同じメンバーです。それでも、たった1年で、ここまで変われるものなんだなと驚いています」。

米田勝朗監督

信じる力で導く――キャプテン・米澤奈々香選手のラストシーズン

最後のシーズンを迎えるキャプテン・米澤奈々香選手は、これまでとは違う覚悟でこの1年を過ごしてきた。春先はチームの8割がケガに悩み、思うように練習を積めない日々が続いたが、夏合宿では全員が声を掛け合いながら立て直し、難しい時期を乗り越えた。

米澤選手自身も、4年目にして初めて夏合宿の全メニューをやり切り、秋には確かな手応えをつかんでいたという。「ここまでしっかり練習を積み上げられたのは初めてで、今は本当に良い状態です。去年の悔しさを胸に、初めての気持ちで臨む全日本になります。今はただ、自分を信じて、仲間を信じて走るだけです」。

米田監督も、その変化を確かに感じている。「もともとポテンシャルの高い選手ですが、これまでの3年間は練習量が足りていなかった。ところが今年は、距離走では最後まで残り、朝練でも誰よりも長く走っていて、その変化は一目瞭然。キャプテンとしての責任感、自分自身が最後にいい走りで終わるという覚悟。その両方を感じました」。合宿を経てからは、チーム全体を引っ張る存在としての自覚がはっきりと見えるようになったという。

4年生を中心にチームの雰囲気は明るい

「走りで魅せる」というスローガンを掲げた今年、米澤選手は言葉よりも行動でチームを導いた。「自分の走りを見て、少しでも『キャプテンが頑張っているから頑張ろう』と思ってもらえたら」。ケガを防ぐためのケアやストレッチも練習の一部だと捉え、自分の体に向き合う姿に、下級生たちも自然と続く。練習後の廊下には、夜遅くまでケアを続ける選手たちの姿が見られるようになった。米澤選手の姿勢がチーム全体の意識を変えた。

そのリーダー像にも、4年間で変化があったという。「高校のときはルールが多くて、どちらかというと『縛ってまとめる』タイプのキャプテンでした。でも大学1年生のときにキャプテンだった成美先輩の姿を見て、理想像が変わったんです。成美先輩は言葉よりも行動で示してくれる方で、本当に自然と『この人についていきたい』と思える存在でした」。

大学では、自分で考えて行動する力が求められる。だからこそ、米澤選手は「縛る」のではなく「信じる」ことを選んだ。「小さなことにいちいち口を出すのではなく、選手一人ひとりが自分で気づき、行動できるチームにしたい。できるだけ言葉で指示せず、姿で見せて学んでもらう――そんなスタイルでやってきました」。

キャプテンとして迎える最後の駅伝。米澤選手の「信じる力」が、名城の再生を後押しする。

笑顔で語ってくれた、米澤奈々香選手

【密着レポートvol.4の記事はこちら】

新たな循環がチームを強くし、輝きを取り戻す

チームに新しい風を吹き込んでいるのが、1年生の面々だ。ワールドユニバーシティゲームズで10000mを32分1秒で走った細見芽生選手は、5000mの個人ランキングで堂々の1位。1500mから10000mまで自己記録を更新し続けている。

中学生の頃から、名城大学で走るのが夢でした。メンバーとしてスタートラインに立てるのが本当に嬉しいです。ユニバではあと少しでメダルに届かなかったけれど、あの経験が自信になりました。駅伝では結果でチームに貢献したいです。自信は……けっこうあります!」。

細見芽生選手

【密着レポートvol.6の記事はこちら】

「1年生に刺激を受けて、今まで伸び悩んでいた上級生までもが力を出せるようになったというのは、本当に大きな成果です」と米田監督。象徴的なのが、1年時以来のメンバー入りとなった4年生の大河原萌花選手だ。高校時代は1500mでU-20日本選手権を制した実力者だが、大学では故障が続き、長く走れない時期を過ごしてきた。それでも諦めず、地道に体づくりを重ね、直近の記録会で15分56秒の自己ベストを更新。ラストイヤーにして、初めての出走が濃厚となっている。

大河原萌花選手

3年生の村岡美玖選手も、長いブランクを乗り越えて戻ってきた。名門・長野東高校出身で、全国高校駅伝のアンカーとして逆転優勝を決めた立役者だったが、大学では疲労骨折の連続。「走れない自分にずっと悔しさがありました。でも、ここで諦めたら、今までやってきたことが何も残らないし、これまで応援してくださった方々に申し訳ない。『絶対に駅伝を目指す』という強い気持ちで頑張ってきました」。故障のたびに体の使い方を見直し、故障しにくいフォームを身につけた。「夏合宿で、ジョグの質が変わっていることに気がつきました。区間賞を狙えるような走りで、名城の一員として恩返しがしたいです」と力強く語る。

2023年の第44回世界クロスカントリー選手権大会ではU20日本代表に選ばれている

石松愛朱加選手は、4年生としての責任を胸にチームの空気を整えてきた。「4月の段階では、まだどこか1年生との間に温度差があったので、定期的にミーティングを開き、チーム内で積極的にコミュニケーションを取って、雰囲気を盛り上げることを意識してきました」。今年は駅伝に向けて10000mにも挑戦。「秋から徐々に調子が上がってきて、今年は本当に楽しみですし、自信があります」と笑顔を見せる。

石松愛朱加選手

再び頂点を目指して走り出した名城大学。それを加速させているのは、経験豊富な上級生と、伸び盛りの下級生の相乗効果だ。学年を超えた「勝利への意識」が、チームの中で確かに循環している。

王座奪還の瞬間をパブリックビューイングで見届けよう!

誰が何区で走るかという見極めは、最も繊細で重要な作業だ。米田監督は「例年と違って、今年はまだ絞れていません。正直、全員の調子がすごくいいので、逆に難しいところなんです」と頭を悩ませている。勝利への最短ルートは、3区で抜け出し、4区で差を広げ、5区で勝負を決めること。仙台のコースでは、過去8年間の優勝チームの多くが3区で流れをつくっている。「うちが勝つとしたら、やはり3区で抜け出す展開です」。特に大東文化大学との勝負を想定し、1年生エースの細見選手をどこに配するかが鍵になるという。

9月に香港で行われた「U20東アジア陸上競技選手権大会」の女子5000mでも優勝を飾っている

戦力の比較でいえば、名城大学の層の厚さは他大学を凌ぐ。誰がどの区間でも戦える布陣へと仕上がっている。「アンカーに15分台の選手を置けるのは名城大学だけだ。優勝を狙うチームは前半にエースを固めざるを得ない。うちは最後まで力を残せる」。焦点はいかに失敗しないかだ。「駅伝はひとつのミスで流れが変わる。1区と2区でいい流れをつくり、後半まで崩れずにつなぐことが最も大切です」。全員が自分の区間で完璧な走りをする、それが理想の駅伝だと米田監督は話す。

「去年に比べて確実に力はついています。おそらく他大学も『今年の名城は強い』という印象を持っているはずです」。米田監督の目に映るのは、王座奪還へ向けて静かに仕上がりつつあるチームの姿だ。

400m×10本、インターバル走を行う選手たち。

大会当日の10月26日(日)は、名城大学天白キャンパスでレースを観戦できるパブリックビューイングが開催される。会場は共通講義棟北1階の名城ホール(N-101)。吹奏楽部やチアリーディング部による応援パフォーマンス、現地スタッフとの中継、駅伝部サイングッズの抽選会などが行われ、スポンサーを務める『コメダ珈琲店』のキッチンカーも出店。

開場は11時、スタートは12時10分。入場無料・事前申し込み不要で、誰でも参加できる。王座奪還を懸けたチームの走りに、キャンパスから声援を送りたい。

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