愛知県スポーツ局スポーツ振興課
JPEN
instagram facebook twitter youtube
menu
page top
Pick Up記事カテゴリー
2025/07/09 aispo! News

“世界のトップウォーカー”山西利和選手が語る競歩の魅力

10年ぶりに世界新記録を樹立
名実ともに世界ナンバーワンウォーカーに

2025年2月16日(日)、兵庫県神戸市で行われた第108回日本陸上競技選手権大会 男子20km競歩で約10年ぶりに世界新記録が生まれた。タイムは1時間16分10秒。これまでの記録を26秒も短縮する好タイムだ。

この素晴らしい記録を打ち立てたのは、山西利和選手(愛知製鋼)。9月に東京で行われる『世界陸上』でも金メダルの期待がかかる29歳に、競歩の魅力を語ってもらった。

第108回日本陸上競技選手権大会にて

山西選手は京都府の出身。中学時代は3000mなど、主に長距離走の選手として大会に出場していたが、本人曰く「目立った成績は残せていなかった」。転機が訪れたのは、進学校として有名な京都市立堀川高等学校へ進学してからのことだ。

「先輩が競歩をしている姿を見て興味が湧き、自分もやってみようと思いました」

競歩を始めるとその才能が開花。同校3年生の時には、ウクライナで行われた世界ユース陸上競技選手権の日本代表メンバーに選ばれた。男子10000m競歩に出場すると見事に初優勝。世界デビュー戦で日本人選手としては初めての快挙を達成してみせた。

山西選手の快進撃はその後も続く。京都大学進学後に出場した2017年のユニバーシアード男子20km競歩では金メダルを獲得。愛知製鋼へ入社した2018年には世界競歩チーム選手権に出場して、日本チームの金メダル獲得に貢献した。その翌年にカタールのドーハで行われた世界陸上の男子20km競歩でも金メダルに輝くなど、名実ともに世界の頂点へと上り詰めている。

第108回日本陸上競技選手権大会・ゴールの瞬間

ただし、その後の競技人生は決して順風満帆というわけにはいかなかった。金メダルの最有力候補として挑んだ東京2020オリンピックでは後半まで先頭でレースを引っ張りながらも、終盤に逆転を許し銅メダルに。

2022年のアメリカ・オレゴンで行われた世界陸上では2連覇を果たしたものの、2024年のパリオリンピックは激しい国内での選考レースに敗れ、出場権すら獲得することができなかった。結果が出せずに悔しい思いもしてきただけに、世界新記録を出せたことは素直に嬉しかったという。

「2024年は一年間しっかりと練習を積めたことが、今の好調に繋がっています。ヨーロッパでの試合に出たり、海外の選手との交流を深めたり、これまでとは違うアプローチで取り組んだことがよかったです。非常に新鮮ですし、経験値が上がっていると実感しています」。

2025年2月、20km競歩で出した世界新記録のタイム
世界新記録を更新し優勝したことが高く評価され、愛知県スポーツ功労賞を受賞。受賞は4度目。

誰よりも速く歩くためのポイントは『体幹を鍛えスムーズに体重を移動させること』

100m走でもマラソンでも、陸上の「走る」種目はタイムさえ速ければフォームを問われることはない。だが、競歩には2つの大きなルールが存在する。

ひとつは、常にどちらかの足が地面についていなければならないという「ロス・オブ・コンタクト」の反則。もうひとつは、足が地面に着いている間、膝を曲げてはいけないという「ベント・ニー」の反則だ。

これらのルールに違反して審判から警告を3回受けると失格するという厳しい条件の中、山西選手はいかに効率よく歩くことができるのかを、常に考えてトレーニングをしているそうだ。

トレーニングの様子

「速く歩こうとすると体は疲れてしまうので、楽に歩くことを心がけています。体力を貯めておいて、後半の勝負どころでギアを上げてスピードをあげるのがポイント。ライバルと駆け引きをしつつ、レースをマネジメントしていくのが競歩の醍醐味です」と山西選手。レース中は常に知略を巡らせながらゴールを目指しているという。語る口ぶりは、まるで“歩く哲学者”のようだ。

「おそらく3kmくらいの短い距離だと、スピードのある欧米の選手には太刀打ちできません。20kmという長距離だからこそ、持久力があって楽に歩く技術を持っている日本人が戦える土壌が出てくるのだと思います」

そう話す山西選手の身長は164cm。大柄な欧米の選手と比べるとかなり小柄だ。それでも世界の強豪と伍して戦っていけるのは、上下動が少なくスムーズに流れていくような安定感のあるフォームを身につけているからに他ならない。

山西選手が特に大切にしているのが体幹と体重移動だ。

「競歩は腰を軸に体を回転させることで推進力を得ているので、体幹を鍛えて体の振れ幅のバランスを良くすることがポイントの一つです。また、自重をうまく使って歩くことも、速く歩くためのコツ。足を踏み出す時に体重をしっかり移動させることができると、その分推進力を高めることができます」。

インタビューに答える山西選手

誰にも優勝チャンスがあるのが競歩の魅力
知恵と工夫で世界陸上の金メダルを目指す

「数年前の自分はオリンピックや世界陸上などの大きな大会で良い成績を残すことに重きを置いていましたが、今はいろいろな経験や気付きの中から自分に合った歩き方を見つけるというプロセスを大切にしています。その上で大きな大会で結果を残すことができれば、なお良いと思っています」。

そう話す山西選手が今シーズンの大きなターゲットにしているのが9月に東京で行われる世界陸上だ。もちろん世界記録保持者として金メダルの期待がかかる。

「パリオリンピックの男子20km競歩の結果を見ると、中南米、北米、ヨーロッパ、アフリカ、アジアと上位に各大陸の選手が満遍なく入っています。競歩はそれだけ人種に関係なく誰もがフラットに戦える非常に面白いスポーツだと言えるでしょう。世界陸上では、選手間の駆け引きとか、レース運びだとか、そういうところに注目して見てもらえると面白いと思います。ぜひ沿道やテレビで声援を送ってください」。

2026年愛知・名古屋アジア競技大会の競歩は、バックに映る愛知県庁と名古屋市役所周辺のコースで開催される予定

9月の世界陸上を皮切りに、2026年のアジア競技大会、2028年のロサンゼルスオリンピックと大きな国際大会は続いていく。理想の歩きを追い求める山西選手がどのようなレースを見せてくれるのか、これからの活躍に期待したい。

共に東京世界陸上へ出場予定の丸尾知司選手と

PROFILE
山西利和
やまにしとしかず。1996年2月生まれ。京都府出身。京都大学卒業。2019年世界陸上金、2025年に20km競歩で世界新記録を樹立。2025年6月、愛知県スポーツ功労賞を受賞。知性と実力を併せ持つ世界トップウォーカー。


シェア:
twitter
facebook
関連タグ

aispo!マガジン最新号

2025 / vol.45

PickUp記事


Pick Up記事カテゴリー