名城大学女子駅伝部 密着レポートvol.6
世界を走った1年生
──名城大コンビが挑んだユニバーサルシティゲームズ

国際大学スポーツ連盟(FISU)が主催する、大学生を対象にした国際総合競技大会・FISUワールドユニバーシティゲームズ。2年ごとに開催される「学生のオリンピック」とも呼ばれ、世界中の学生トップアスリートが集まり、熱戦を繰り広げる。夏季大会・冬季大会があり、1959年の第1回大会以来、60年以上の歴史を誇る。
参加国は100か国以上、競技種目は30種目以上に及び、オリンピックに匹敵する規模と注目度を誇るこの舞台で競い合うことは、学生アスリートにとって夢であり、キャリアの大きな一歩となる。ここでの経験は、世界のトップレベルで戦う自信と誇りを与える、まさに特別な挑戦の場だ。
2025年7月16日、ドイツのデュイスブルクで開会式が行われ、12日間にわたる熱い夏季大会が幕を開けた。この舞台に、名城大学女子駅伝部の1年生2人の姿があった。
大学入学からわずか数カ月。チームジャパンとして日の丸を背負ったのは、橋本和叶(はしもと わかな)選手(写真右)と細見芽生(ほそみ めい)選手(写真左)だ。
代表決定の瞬間から大会本番で見た景色、そして駅伝シーズンに向けての新たな決意までを追う。
世界への扉が開いた瞬間
2025年4月、神奈川県で行われた「2025日本学生陸上個人選手権大会」女子10000mで、細見選手は33分11秒17で2位、橋本選手は33分12秒65で3位に入り、そろって派遣標準記録(33分30秒)を突破。ワールドユニバーシティゲームズの選考結果を待つ身となった。
結果を知らせる電話が鳴ったのは、2人が寮で過ごしていたときだった。米田監督の声が届いたその瞬間を、細見選手は「2位だったので(代表に選出される)可能性は高いと言われていましたが、和叶といっしょにユニバに行きたかったので、抱き合って喜びました」と、橋本選手は「ユニバはずっと目標でした。今回はダメかも知れないと思っていたので、本当に嬉しかったです」と振り返る。
陸上女子で、代表入りを果たした1年生は、この2人だけだ。代表入りが決まってからは、初めて立つ世界の舞台に向けて調整を重ねていった。
橋本選手は距離に対応できる体づくりのため、走り込みと筋力補強を丁寧に継続した。一方、細見選手は練習メニュー自体は大きく変えず、10000mに照準を合わせた。自主練習ではペースを上げたジョグや、質の高いトレーニングを意識的に取り入れ、着実に準備を進めた。

国際大会が見せてくれた新たな景色
7月21日(現地時間)に行われたワールドユニバーシティゲームズ女子10000m決勝で、細見選手は32分01秒91と自己ベストを大きく更新し4位入賞。橋本選手は33分49秒84で18位と健闘した。3日後の7月24日に行われた女子5000m予選では、橋本選手が16分17秒90で11位に食い込んだ一方、細見選手は足の状態を考慮して棄権を選択した。
海外での大会は、二人にとって初めての経験だ。
橋本選手は「入場の歓声や応援の雰囲気が、日本とはまったく違うんです。ひるむどころか、むしろ胸が沸き立って、もっと頑張ろうって気持ちになりました」と振り返る。
細見選手も、国内とは異なるレース展開に驚かされたそうだ。「日本だと一定のペースで進むことが多いけれど、海外では急に誰かが前に出たり、一気にペースが上がったりと、スリリングです。初めての経験だったけど楽しかったです」。
今シーズンは3000m、5000mで自己ベスト更新と好調だった細見選手は、10000mでも大幅な記録更新を果たした。
「当初は『メダルを絶対取るぞ!』と意気込んでいましたが、想像以上に格上の選手が多くて、持ちタイムを見ると自分より1分半以上も速い人ばかり。『自己ベストを更新できたら100点』と、気持ちを切り替えました。でも走るからには積極的に行こうと決めて、前でレースを展開しました。途中で『そろそろトップ集団から落ちてもおかしくないな』と予想したのですが、最後まで集中が切れずに粘れて『どうしてここまでくっつけていられるんだろう?』と不思議に思ったくらいです。レースを支配できた感覚で、楽しかったです」。

スタミナに自信のある橋本選手は10000mと5000mの両種目で粘りを見せた。「10000mでは、前の方で走る芽生の背中を追いながら、前半は積極的に走れました。離れてからは、他の海外選手のリズムに合わせることを意識しました。両種目とも、ビビらずに走れたのは自信に繋がったと思います」。
一方で、タイムや順位には納得しておらず、「どうやって状態をレースに合わせるか、自分の身体をもっと突き詰めたい」と、次なる挑戦への決意を見せた。
競技以外でも、多くの学びがあった。細見選手は「世界を舞台にする選手たちは、走り終えた後も皆で労い合い、優しく声をかけ合う懐の深さがあります。私も周囲に目を配れるようになれば、もう一段階強くなれるのではないかと感じました」と、トップクラスの選手の振る舞いから刺激を得た。
橋本選手も「海外の選手はアップ中も笑顔で、レース直前でも会話しています。日本だとピリピリしている選手も少なくないので、集中していながらもあの自然体な雰囲気を出せるのはすごいと思いました。きっと自信やメンタルの強さの表れですよね」と分析する。
また、チームジャパンの選手たちと過ごした時間も、二人にとって印象深いものだった。
長距離以外の選手と関わる機会はこれまで少なかったが、短距離や跳躍といった全く異なる種目の選手たちと過ごす中で、世界や日本のトップを目指す姿勢に触れ、大きな刺激を受けた。
代表選考の基準やタイムを意識しながら、普段は聞けない高いレベルの会話に触れることで、新鮮な学びを得たという。

共に走り、支え合う同期の絆
同じ練習を積み、同じ目線で世界を見た二人は「良きライバル」であり「心強い相棒」だ。
橋本選手は「芽生は大会のたびに自己ベストを更新しています。同じメニューをこなしている仲間が結果を出す姿を見ると、自分もできるはずだと背中を押されます。いつもたくさん声を掛けてくれて、刺激をもらってばかりです」と笑う。細見選手も「和叶は、きつい場面で粘れるし、淡々と押し切る走りができる。そこが本当に羨ましい。私も同じピッチで押し続けるところは意識して真似しています」とリスペクトを隠さない。
レース以外の時間は、あえて競技の話を離れて雑談で笑い合うことが多かったという二人。今回の大会では、名城大学の先輩であり憧れの存在、山本有真選手からのメッセージに勇気づけられたそう。
初めての世界の舞台で、会場の雰囲気にのまれるのではないかという不安もあった細見選手は、山本選手の経験談交じりの親身なアドバイスに励まされ、自然と頬が緩んだ。
橋本選手も、同じ大学の先輩に見守られている心強さを感じ、まだ遠い存在ながら少しでも近づきたいという思いを胸に、決意を固めたようだ。

【山本有真選手へのインタビューはこちら】
王座奪還へ向けてのラストスパート
世界の舞台を終え、富士見高原での夏合宿に合流した二人の意識は、シーズン後半の駅伝へと向いている。
橋本選手は、持ち味であるスタミナを生かし、駅伝でも長い距離で勝負したいと意欲を見せる。「短い距離よりは長い区間を走りたいです。後半の粘りが課題なので、夏合宿ではメンタル面も含めて鍛え直します。合宿はきついけれど、自分を追い込める大事な機会。駅伝での走りを想定しながら練習を重ねたいです」。
細見選手は「区間の希望は特にない」としながらも、長距離区間を任せられる存在になることを目標に据える。「足の状態は少しずつ回復しています。後半の合宿では今までにないくらい走り込んで、自分の殻を破りたい。距離を踏むことでしか得られない自信があるので、そこに全力を注ぎます」。
王座奪還を果たすチームの一員として、日本一に貢献する。二人は、次のステージへと駆けている最中だ。

PROFILE
細見 芽生(ほそみ めい/人間学部/広島・銀河学院高等学校卒業)
兵庫県出身。中学卒業後、岡山・興譲館高校から広島・銀河学院高校へ転校し競技を継続。高3時のインターハイでは3,000mで日本人トップの5位、1,500mで6位(日本人2位)を記録。
2028年のロサンゼルス五輪出場を大きな目標に据え、フルマラソンで世界を目指す。
橋本 和叶(はしもと わかな/法学部/新潟・新潟明訓高等学校卒業)
新潟県出身。高校時代は1,500m・3,000mでインターハイに出場し、全国高校駅伝では3年時に1区10位。高校卒業前には丸亀国際ハーフで1時間13分30秒をマークし、スタミナにも定評がある。「駅伝では最長区間を任される実力をつけたい」と、世界基準の走力でチーム牽引を誓う。
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