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2025/03/12 特集記事

名城大学女子駅伝部 密着レポートvol.3
絶対王者から挑戦者へ――米田勝朗監督が進む「日本一奪還への新たな道のり」

再び強くなるために必要だったターニングポイント

 「秋の全日本大学女子駅伝対校選手権大会」(以下、全日本大学女子駅伝)で7連覇、「冬の全日本大学女子駅伝対校選手権大会」(以下、富士山女子駅伝大会)で6連覇を達成し、女子大学駅伝界の絶対王者として君臨してきた名城大学。しかし、昨年10月の全日本大学女子駅伝では4位、12月の富士山女子駅伝では8位と上位争いから脱落し、その記録は途切れることとなった。この敗北は駅伝界に大きな衝撃を与えたが、チームを率いる米田勝朗監督は「負けるべくして負けた」と振り返る。

2024年の全日本大学女子駅伝で4位、富士山女子駅伝では8位

 「一昨年、その前の年くらいから、チームの中で『勝つこと』に対して少し甘く考えている部分があったと思います。連覇を重ねるごとに、そればかり期待される環境になり、学生たちも『勝つことが当たり前』という意識になっていました。『今の取り組み方では負けるよ』と言い続けていましたが、たまたま相手がミスをしたり、うちの選手がある程度うまく走れたりして、結果として勝ててしまっていたんです」

 「勝ち続けるのが当たり前」という空気が醸成されていたチームに、昨年の敗北が警鐘を鳴らした。力を出し切っての敗北ではなく、日々の積み重ねが足りなかった結果としての敗北だ。しかし、米田監督は、これを成長のための貴重な経験だと捉えている。

 「連覇が途切れたのは残念ですが、本気で戦っていないのに勝つ経験を積むのは良くありません。特に、実業団に行って世界を目指す選手たちにとって、『やるべきことをやらなければ世界では戦えない』ということを学び、『なぜ自分の力が発揮できなかったのか』を自分で考え、自分で答えを見つける力をつけるためには必要な経験だったと思います」

昨年夏の練習風景。真ん中の谷本七星選手(前キャプテン)は今春卒業後、日本郵政へ。

密着レポートvol.1の記事はこちら

「勝ちたい」と決意を新たに再出発を図る

 名城大学女子駅伝部は、2025年のチームスローガンとして「走りで魅せる!王座奪還!」を掲げている。選手たち自身が考えたこのスローガンには、言葉ではなく走る姿勢そのもので自分たちの努力と意識、成長を証明して日本一を奪還したいという決意が込められている。2025年1月からスタートした宮古島合宿では、選手たちの姿は見違えるほど変わったという。

 「どんな練習に対しても食らいつき、練習メニュー以上のことを一人ひとりがやろうとしている姿勢が見られます。『本当に勝ちたい』という気持ちが伝わってきますので、私も絶対に勝たせてあげたいと思います。1年で日本一を奪還することは高いハードルですが、今の選手たちからは跳び越える力と執念を感じます」

真剣にトレーニングに打ち込む選手たち

 駅伝はチームスポーツと違い、周りがカバーすることが難しい。選手たちそれぞれのメンタルの強さが問われる競技だ。試合当日に最高のパフォーマンスを発揮するためには、体重管理や食生活、休養の取り方まで全てを徹底的にコントロールする意識も不可欠だ。チーム全体にその意識が満ちていれば、結果はおのずとついてくる。一方で、そうした覚悟が欠けたチームは、どれほど優れた選手を揃えていても勝つことはできない。

 「去年は、練習メニューが終わったらさっさと部屋に戻る選手もいましたが、今ではひとりひとりが黙々とやるべきことをやって、1キロでも長く走ろう、積極的に補強をやろうという雰囲気があります。チーム内で良い連鎖反応が起きていて、全体の意識レベルが上がってきていますね」

 より強いチームへと生まれ変わりつつある名城大学女子駅伝部。選手たちは今、その変革を走りで証明しようとしている。

「勝負のカギは4年生」新キャプテンと新入生が起こす化学反応

 今年の名城大学女子駅伝部を率いる新キャプテンは、新4年生の米澤奈々香選手だ。米澤選手は昨年の全日本大学女子駅伝の1区で出遅れ、悔しい思いを経験した。

 「中学時代からエースで、これまでは勝利を導くキーパーソンとして活躍してきた米澤は、今回、生まれて初めて自分が足を引っ張るという経験をしました。スポーツは勝負の世界で、結果が全てです。今までは練習後一番早く部屋に帰っていた新4年生でしたが、米澤を中心に今では一番遅くまで残り自主トレに取り組んでいる。自分の覚悟と姿勢がチームの雰囲気を作っていくということを、今まさに実感しているようです。日の丸を背負って戦えるポテンシャルを持っている選手だからこそ、この経験を力に変えてほしいです」

新4年生の選手の皆さん。新キャプテンの米澤奈々香選手は写真中央

 また、強力な新戦力も加わった。名城大学に新たに入学予定の学生はマネージャーを入れて8人。その中の4人は、昨年末の全国高校駅伝のエースが集結する第1区で10位以内に入る活躍を見せた頼もしい顔ぶれだ。彼女たちが加わることで、チームの競争力はさらに高まるだろう。とはいえ、米田監督は「下級生に頼るチームにはしたくない」と語る。

 「上級生がしっかりとチームを引っ張ることが大切です。新4年生の6人には、『この6人だけで日本一を取りに行くくらいの実力をつけてほしい』と伝えています。強い4年生がいるチームは必ず強くなるんです」

新4年生の6人が並ぶ、ネームボード

 選手たちにとっては、日本一を目指し、仲間とともに切磋琢磨し続けた経験そのものが大きな意味を持つ。メンバー入りを懸けて日々努力し、立ち向かっていく過程で培われた忍耐力や挑戦する姿勢、考える力は、卒業後もあらゆる場面で生かされていくことだろう。

 「以前、12年間ずっと結果が出ない状態で、『勝ちたい』の一心で取り組んでいた時代がありました。そのことを今懐かしく思い出しています。日本一を『守る』よりも『目指す』という立場でのワクワク感を久しぶりに味わっています」

 春から夏のトラックシーズンを過ぎれば、再び駅伝シーズンが訪れる。名城大学女子駅伝部が、どのような走りを魅せてくれるのか。選手たちの挑戦は、すでに始まっている。

歴代のタスキ

PROFILE
米田 勝朗
よねだ かつろう。1968年生まれ。宮崎県出身。日本体育大学卒業後、同大大学院体育学研究科修士課程を修了。1995年に名城大学へ着任し、1996年に女子駅伝部を設立。法学部教授として体育科教育学・運動方法学(陸上競技)の研究と指導を行いながら、女子駅伝部を強豪チームに育て上げた。

密着レポートvol.2の記事はこちら


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