愛知県スポーツ局スポーツ振興課
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目指すは初優勝、そして初のチャンピオン
ラリーの頂点・WRCに挑む勝田貴元

世界のトップドライバーと共に経験した表彰台

 世界に通用する日本人ラリードライバーを育てようと、トヨタ自動車は2015年に「ラリーチャレンジプログラム」を立ち上げ、愛知県長久手市出身の勝田貴元選手がその第一期生として選出された。勝田選手はラリーの本場であるフィンランドに移り住み、様々なラリーイベントに出場しながら経験を積み、2019年からWRC(世界ラリー選手権)のトップカテゴリーに参戦。2021年6月に行われた「サファリ・ラリー・ケニア」では、自己最高位である総合2位を獲得し、その才能を自らの力で証明してみせた。
 同大会で勝田選手を抑えて優勝したセバスチャン・オジエ選手は、WRCで世界チャンピオンに7度輝いた現役最強のドライバーで、現在は勝田選手と同じTOYOTA GAZOO Racing(以下トヨタ)に所属している。一方、総合3位に入ったオィット・タナック選手は、2019年にトヨタで世界チャンピオンに輝き、その後ライバルチームのヒュンダイに移るも、当時チームメイトだった勝田選手を今も弟のように可愛がっている。「タナック選手にはトヨタで走っていた時から色々なことを教わっていて、どんな時でもアドバイスをくれたり、可愛がってくれました。そして、オジエ選手は現在チームメイトとして、とても良くしてくれています。そんな彼らとキャリア初の表彰台を共にできたということは、非常に感慨深いです」。

ライバルであり、仲間であるチームメイト達

 モータースポーツの世界ではとかく人間関係が複雑になりやすく、特に接触によるクラッシュが頻発するサーキットでのレースは、例えチームメイトであっても不仲になることは少なくない。しかし、個人のタイムアタック競技であるラリーでは、選手同士の仲が良いことが多く、特にトヨタ勢の結束は固い。現在は世界王者のフランス人のオジエ選手、そのオジエ選手と昨年最後までタイトルを争ったイギリス人のエルフィン・エバンス選手、そして20歳というWRC史上最年少記録で今年初優勝を飾ったフィンランド人のカッレ・ロバンペラ選手の3人がトヨタのワークスドライバーを務め、勝田選手も候補生ながらほぼ同じ体制で参戦している。そして、彼ら4人は普段から非常に良い関係を築いているという。
 「オジエ選手はラリーの先輩として様々な場面で多くのことを教えてくれます。また、チームを牽引していく姿から学べることも沢山あります。エバンス選手とも仲良くさせてもらっていて、タイミングが合えば一緒にトレーニングをしたりします」。少し前までは勝田選手にとってオジエ選手とエバンス選手は雲の上の存在であり、対等に戦うことがひとつの目標だった。しかし、最近は彼らと同じようなタイムを出すことが増え、時に速さで上回り、優勝を争うなど実力が接近してきている。経験豊かなトップドライバー達から多くを学び、切磋琢磨できる勝田選手は、非常に恵まれた環境にいるといえるだろう。
 「ロバンペラ選手とも普段からすごく仲が良いです。初めて会ったのは彼が15歳の時でしたが、当時すでにラトビアのチャンピオンだったので、『なんだ、この少年は、凄いな』と思ったのを覚えています。僕も彼もフィンランドに住んでいて家が近いので、一緒に遊んだり、氷上でドリフトを楽しんだりしています。年は若いですが、10代の時から考え方が本当にプロフェショナルだと思いますし、尊敬しているドライバーのひとりです」。ロバンペラ選手は、次の時代の世界王者筆頭候補と目される天才ドライバー。つまり、勝田選手のチームメイトは全員がチャンピオンを狙える実力を備えているといえる。
 「僕達はドライバー同士でグループチャットをやっていて、コース上に石が出ていて危険な場所や、気をつけるべき場所などをラリー中も情報交換しています。とてもオープンな関係で、もちろん勝ち負けはありますけど、相手を蹴落すようなことは全くなく、みんなでいい結果をチームに持って帰ろうと、本当に良い雰囲気で戦っています」。ライバルでありながら、同じチームで戦う仲間でもある関係が、よい結果に繋がっているのだ。

家族の存在が支えになり、力となる

 勝田選手は現在、フィンランドで奥さんと長女と3人暮しをしている。だが、WRCは世界を転戦するため、なかなか家族とゆっくり過ごすことができないことが目下最大の悩みだという。「親バカの頂点を極められそうなくらい娘が好き過ぎて。もう溺愛しています(笑)。ラリー中も夜、ホテルに帰ると奥さんから送られてきた娘の動画を見てニヤニヤしています。娘は僕の力の源ですね。1カ月のうち10日も家にいられないことが多いので、奥さんがフィンランドで娘と一緒に頑張ってくれています。だから、家にいる時は、とにかく奥さんの自由な時間を作ってあげたいですし、娘とも色々な場所に遊びに行っています」。
 また、日本にもあまり帰れていないという勝田選手の帰国後の楽しみは「日本食」だ。「フィンランドに住んでいて何が一番寂しいかというと、食べ物なんですよね。当然ですが、フィンランドに味噌ってないんです。愛知ならではの味噌煮込みうどんや味噌串カツを早く食べたいし、大好きな『CoCo壱番屋』のカツカレーや、『和食麺処サガミ』の手羽先も食べたい(笑)。それに焼肉! あんなに柔らかいうえに薄くておいしいお肉は、海外に存在しないと思います」。
 2022年に愛知県長久手市で開業予定の「ジブリパーク」にも行ってみたいという勝田選手。「奥さんがジブリのアニメーションの大ファンなんです。僕の地元にできるスポットでもありますし、完成したら奥さんと娘の3人で行きたいですね」。また、その長久手市に住む祖父(元WRCドライバーの勝田照夫さん)と父親(全日本ラリードライバーの勝田範彦さん)については、「もちろん祖父と父にも会いたいですが、彼らはきっと僕よりも娘に会いたくてしょうがないと思いますよ(笑)」。
 勝田選手は現在28歳。家庭を持ち、ラリーストとしても円熟期に入ろうとしている。目指すは日本人初のWRC優勝。その先には栄光のドライバーズチャンピオンへの道が開かれている。

写真提供 - TOYOTA GAZOO Racing
PROFILE
かつた たかもと。1993年生まれ。愛知県長久手市出身。レーシングドライバーとして活躍し、2013年の全日本F3選手権で年間2位に輝いた。2012年にラリー出場を開始し、トヨタのWRC育成選手に選ばれた2015年、正式にラリーに転向。フィンランドに住みながら実戦経験を積み、2018年と2019年には最高峰に準じるWRC2で優勝した。2019年からヤリスWRCで最高峰クラスへの参戦を開始し、2021年はフル参戦を果たす。第6戦サファリ・ラリーで総合2位を獲得した。



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