愛知県スポーツ局スポーツ振興課
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知られざる柿谷曜一朗という男
その胸中に秘めた決意とグランパスへの思い

“柿谷曜一朗”のイメージは今シーズンどのような形に結ぶか

 新たなシーズンを迎えるにあたって、我々はまず柿谷曜一朗選手に抱くイメージの“誤解”を解くことから始めなければいけないのかもしれない。セレッソ大阪のアカデミーで育ち、16歳でプロ契約を結んだ“ジーニアス”は、その超絶技巧を駆使して多くのゴールを稼いだ2013年の姿が最も特徴的に描かれることが多い。柿谷選手と言えば攻撃、テクニック、そしてゴールシーン。そういったイメージが強かったからこそ、名古屋グランパスに移籍した昨シーズンのプレーはなおのこと、「柿谷は変わった」とサポーターを驚かせた。
 だが、そこが先入観であり、プロサッカー選手としての闘いがあったのだと、柿谷選手は赤裸々に語る。「ゴール裏で応援してくれるファミリー(グランパスのファン・サポーターの呼称)の方にも“変わった”と言われたんですけど、僕のことを誤解しているといけないので言います。僕が一番得点を取ったのはセレッソでレヴィー・クルピ監督の時ですが、その時は全く守備をしませんでした。センターサークルの中で止まっていて、攻撃をするためだけに100%身体を使えと言われていたので。“戻るな、疲れるな”とね。ボールが来た時に打開力を100%出すために。そういう指示のもとでやっていたんです。でも、マッシモ フィッカデンティ監督がそう言うわけはないですよね(笑)。選手は、監督の指示に合わせなければいけない部分があります。その中で自分が乗り越えていく、強くなっていくために、プラスもうひとつの強さを出せれば、僕のサッカー人生にとって大きなことやなって昨シーズン思いました。この2~3年間は継続的に試合に出られていなかったので、1年間試合に出続けた昨シーズンは自分の中では大変だった。けれども、こうした充実した1年を過ごすのはすごく貴重で、こういう充実したサッカー人生を続けていきたいなって思いました」。
 前線に限らず守備に走り回り、味方のために身体を張る柿谷選手の姿はそうした努力の産物であり、チャレンジの結晶だったわけだ。昨シーズンのJ1リーグ年間ベストゴールに選ばれたファンタジックなプレーは彼の代名詞で、泥臭いハードワークでチームを助けるプレーもまた柿谷選手らしさである。持っている能力をどう使うかはチームの要求次第で、だからこそ「得点力アップ」を命題に掲げる長谷川健太監督のもと、柿谷選手がどんなパフォーマンスを発揮するかは楽しみで仕方ない。得点力でも守備力でも、さらなる引き出しを開ける可能性も、十分にあるからだ。


2人の娘から「かっこいい」と言われるためにも

 サッカーのために生活のすべてを捧げる柿谷選手だが、そこには家族の支えが欠かせない。「表現すると、“癒やし”に近いかな」。サッカー中心の生活では基本的には小さな子どもたちの世話は奥さんが担当。しかし、2人の娘の良きパパであることに違いはない。「疲れた時、負けた時、ネガティブな気持ちでいる時ももちろんある。ただ、家に帰って娘が駆け寄ってくると、“あ、これで救われる”って感じるんです」。だんだんとおしゃべりも上手になってきた長女と、まだ生まれたばかりの次女から力をもらうことも多いと言い、「この子らに何かかっこいいところ見せたいなって。“パパ今日はかっこよかったね”って言われるぐらいまでは、頑張らないとなって」と、現役生活にさらなる張りが生まれている。
 グランパスへの移籍に伴い、愛知県で暮らし始めた柿谷選手だが、残念ながらコロナ禍が重なったことでほとんど出かけられていないという。今、気になっているのはレゴランド・ジャパンだ。「娘に行きたいってずっと言われているんです。連れて行ってやりたいんですけどね……。」折しも今シーズンの沖縄での春季キャンプは、新型コロナウイルスへの感染対策に万全を期した中でもチーム内に感染者が出てしまい、キャンプが一時中断するという事態にも陥った。早く世の中が日常を取り戻し、家族揃って愛知での生活を存分に楽しめる日を心待ちにしているようだ。


チームを勝たせるためにもう遠慮はしない

 長谷川監督が率いる今シーズンのグランパスについて、柿谷選手も期待するところは大きいようだ。抜群の実績を誇る長谷川新監督を、「勝つということに対しての意欲とか、勝負勘、勝負所を兼ね備えている監督」と絶賛し、着実に変貌を遂げつつある新たなチームスタイルにも好印象の様子。クラブ30周年となる今シーズン、誰もが2010年以来のリーグ優勝に執念を燃やしている。
 2年目を迎えれば、愛知のスポーツチームの一員としての視野も拡がり始める。「僕は大阪のチーム出身ですが、やっぱり何をやってもプロ野球の阪神タイガーズには勝てなかったんですよ」と語る。その自身の経験を踏まえ、「僕は勝手に中日ドラゴンズがライバルだと思っているし、ほかの愛知のスポーツチームも全部ライバルやと思っている」と、プレーで貢献するだけでなく、グランパスの人気を高めることにも意欲を見せている。
 柿谷選手が自身に課した今シーズンのテーマは明快だ。「まずは二桁得点を目指していくこと。それと、自分がチームを勝たせる、勝たせないといけないというのが課題です」と明言。また、「加入1年目の昨シーズンはちょっと遠慮していたところもあったので、今シーズンは自分がチームを引っ張っていければ」という言葉に、ベテランとしてリーダーシップを発揮することへの期待も大きい。多士済々のグランパスにおいても、“柿谷曜一朗”という才能は一際輝く存在だ。今シーズンは背番号8の躍動から、目が離せそうにない。

©N.G.E.
PROFILE
かきたに よういちろう。1990年生まれ。大阪府出身。セレッソ大阪の下部組織で育ち、高校在学中の2006年に16歳でプロ契約。2014年にはブラジルワールドカップの日本代表やスイスのFCバーゼルへの海外移籍を経験し、再びセレッソ大阪へ復帰。2021年から名古屋グランパスへ移籍。“ジーニアス”と呼ばれる天才肌のアタッカーで、観る者を驚かせる超絶技巧が代名詞。昨シーズンも第37節セレッソ大阪戦のオーバーヘッドキックによるゴールがリーグの年間ベストゴールに選ばれている。




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