「自分の演技ができれば、絶対に世界に行ける」
都築虹帆の揺るぎない自信〔サーフィン〕
全ては「ワールドチャンピオン」という大きな夢への通過点
2021年11月の「さわかみチャレンジシリーズ ALL JAPAN 田原プロ」にて、プロ初優勝を飾った都築虹帆選手。期待の若手プロサーファーとして全国にその名を知られた存在だが、サーフィン歴は10年に満たない。プロ合格の表彰台に登ったのはサーフィンを本格的に始めてわずか3年のことだ。「ウィンドサーフィンをやっていた両親の影響で、幼少期から日常的に海で過ごしていましたが、BMXやスケートボード、バスケットボール、サッカーといった別のスポーツに熱中していました」。板を巧みに操って波を乗りこなすサーフィンの魅力に取りつかれたのは小学5年生の時だったという。6年生の夏休みにハワイ・マウイ島へサーフィン留学をする。「現地の小学校に通いながらサーフィンに打ち込むという2カ月間を過ごしました。あの2カ月がなかったら、今の私は違う生き方をしていたと思います」。
その後、初めて参加したアマチュアの試合で初優勝を飾り、アマチュアのガールズサーキットで各地を転戦し、オープンクラスの年間ランク1位に輝くなど、その稀有な才能を日本中に知らしめることとなる。中学3年生で、日本のサーフィンのメッカと呼ばれる田原市に拠点を移し、その半年後にプロ合格を果たした。「最初から夢はワールドチャンピオンなんです。その過程のどこかでプロに挑戦することになるだろうとは考えていました。まずは、プロにチャレンジできるくらいの力をつけておきたいという目標があって、合格したタイミングが中学3年生だったんです。プロになるということは、ワールドチャンピオンという大きな夢に向かっていく中での通過点のひとつでした。今も夢に到達するために、一つひとつ目の前の課題に取り組んでいくことに変わりはありません」。
生活の軸足をプロサーファーに置きながら、高校にも在学した3年間、都築選手は好成績を残し続けた。「デビュー戦を皮切りに、準優勝をはじめ、入賞は何度も受賞しましたが、なかなか優勝できなかったんです。コロナ禍で試合そのものの数が減ってしまったこともあり、田原プロでの優勝は格別の思いでした」。
世界という大舞台へ向けて、一歩一歩進んでいく
海という自然が舞台のサーフィンは「何が起きるかわからない」という、運に左右される場面が数多くあり、スキルだけで勝敗が決まるものではない。都築選手は、高校3年生の終わりにそれを実感したという。「WSL(ワールド・サーフ・リーグ)の最高峰に挑むための出場権をかけたクオリファイングシリーズで勝ち上がる必要があるのですが、そのための試合で、自分のサーフィンができなかったという手痛い経験をしました。その試合のために、人生で一番努力したと言い切れるくらい練習をしてきたし、調子も良かったのですが、結果として報われず、悔しかったです。でも、サーフィンが嫌いになったわけではなく、逆にもっと大好きになりました。得たものは大きかったですし、レベルも確実に向上しました。それに、“世界に一歩近づいた”という実感を持てました」。
今年の目標は、年齢制限が18歳以下から20歳以下へ引き上げとなったWSLのワールドサーフジュニアの大会に日本代表として出場し、メダルを獲得することと、チャレンジャーシリーズへの出場権を勝ち取ることだと都築選手。また、2年後の2024年はタヒチでのパリオリンピック、4年後の2026年には愛知・名古屋で行われるアジア競技大会も控えている。「確実に日本代表を勝ち取ったうえで、自分らしい最高のパフォーマンスをしたいです。タヒチは強烈な波がくる憧れの場所なので、ぜひチャレンジしたいですね。アジア競技大会では、地元選手らしい演技をして、メダルを獲りたいです!」
サーフィンを最優先に、学業と環境保護にも取り組む
「自分のサーフィンには自信があります。私らしい演技が試合でできれば、絶対世界に行けると思っています」。そう断言する都築選手。自分の強みは、メンタルがタフでポジティブなところだそう。「後ろ向きな考えが出てくることもありますが、自然とプラスの方向に軌道修正することができます」。
そのメンタルの支えとなるのが、家族の存在だという。「BMXで鍛えた足腰に、スケートボードで身につけた横乗りの感覚、持久力がついたバスケットボール、リズム感を養ったフラダンスなど、今までチャレンジさせてもらったもの全てが、サーフィンに生かされています。中学3年生で常滑市から田原市に拠点を移すことができたのも、ハワイでの単身修行に毎冬行けるのも、家族が協力してくれるからです。特に母は、メンタル、フィジカル、サーフィンの全てのコーチ的存在です。練習では、研究用にほぼ毎回動画を撮ってくれますし、栄養面にも心を砕いてくれて、パーフェクトなサポーターです(笑)」。
また、今春からは通信制の大学にも入学した。「プロサーファーとして活動しながら、通信制の高校で3年間学びました。自分で勉強のペースをつくりながらサーフィンをするというバランスが気に入っていて、ここで勉強を止めたくないと進学を決めました。優先順位は常にサーフィンが一番なので、時間はかかるかもしれませんが、大学をちゃんと卒業して体育の教員免許を取りたいです」。加えて取り組んでいるのが環境保護活動だ。JPSA海洋環境保全活動アンバサダーに就任したり、賞金の一部を環境保全のために寄付したりしている。「いつも海にいるからこそ、ゴミや水温、生き物の増減などの変化を肌感覚で知っています。環境保護を学ばせてもらいながら、活動と発信もしていきたいです」と、意欲を見せる。
ワールドチャンピオンという大きな夢へ向かってのロードマップを着実に歩みながら、一人の人間としても成長し続ける都築選手のまばゆい姿は、多くのファンに力を与えてくれることだろう。
つづき ななほ。2003年生まれ。愛知県常滑市出身。星槎大学共生科学部在学中。幼少期からアクティブで、BMXやスケートボード、バスケットボール、フラダンスなどに打ち込む。小学6年生の頃に本格的にサーフィンを始め、様々な試合で入賞を飾る。中学3年生の時に太平洋ロングビーチのある田原市に拠点を構え、その約半年後には日本プロサーフィン連盟(JPSA)のプロテストに合格。日本サーフィン連盟強化指定選手、愛知県強化指定選手。
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